朝の空港で
始発便の時間。出発ロビーには、もう長い列ができている。自動チェックイン機の前にも、荷物を預けるカウンターの前にも、スーツケースを引いた人たちが折り返すように並んでいる。
出発まで、もう1時間を切っている。列は、ほとんど動かない。
このままじゃ、乗る飛行機が行ってしまう。間に合うかな……。
そのとき、ふと風が吹いたかと思うと、そっとささやく声がした。
〜 こっちにおいで。
ん? 誰?
〜 私はリコリロ。今日だけ、あなたを上級会員にしてあげる。
空港の搭乗ゲートで見かける「先に乗る人」。
あの人たちはどんな旅をしているのか、そしてあなたが同じ側に行く方法を、分かりやすくお伝えします。
JALには「上級会員」という制度があります。空港で「グループ1」「グループ2」と、ほかの人より先に飛行機へ案内される人たちです。
あの人たちが見ている景色。空港での時間が、まるで変わります。
少しだけ、のぞいてみましょう。
ある朝の空港から、物語は始まります。
始発便の時間。出発ロビーには、もう長い列ができている。自動チェックイン機の前にも、荷物を預けるカウンターの前にも、スーツケースを引いた人たちが折り返すように並んでいる。
出発まで、もう1時間を切っている。列は、ほとんど動かない。
このままじゃ、乗る飛行機が行ってしまう。間に合うかな……。
そのとき、ふと風が吹いたかと思うと、そっとささやく声がした。
〜 こっちにおいで。
ん? 誰?
〜 私はリコリロ。今日だけ、あなたを上級会員にしてあげる。
その風に背中を押されるように、列の横を通り過ぎる。
〜 あそこのカウンターに行ってみて。
少し離れた専用のカウンター。並んでいる人は、いない。
「おはようございます。どうぞ、こちらへ」
スーツケースを台に載せると、係の人がそっと持ち手の向きを直して、赤いタグを結んでくれる。
「優先」の文字。
「窓側のお席、まだ空いておりますが、お移りになりますか」
聞いてもいないのに、ちょうどいい席を探してくれていた。少し迷っていると、急かすでもなく、こちらが決めるのを待っていてくれる。
「向こうは、晴れているそうですよ」
搭乗券が、両手で差し出される。
「いってらっしゃいませ」
子どものころ、家族で出かけた旅行のカウンターも、こんなふうだった気がする。
〜 次は手荷物検査。こっちの入口から入れるよ。
手荷物検査も、専用の入口から。列の長さを気にして時計を見る必要はない。
朝の空港で一番もったいないのは、並んでいる時間だ。その時間が、そっくり自分のものになる。
出発まで、まだ少し時間がある。
ゲートの前のベンチは、もう埋まりかけている。隣の人と肩が触れそうな距離で、スーツケースを足元に寄せて、膝の上でスマホを見る。コンセントの近くの席は、とっくに誰かのものだ。
〜 そこじゃなくて、こっちに来てみて。
リコリロの声についていくと、ラウンジの扉の前に出た。
〜 今日は、ゆっくりしていこうよ。
中は、驚くほど静か。ソファとソファの間が広くて、隣の人を気にしなくていい。足元にはコンセント。Wi-Fiもつながる。
〜 ねえ、喉渇いてない?
ドリンクカウンターへ。生ビールのサーバーがある。そして冷蔵庫には、冷えたグラスと、ガラスポットに入った美味しそうなトマトジュースが。
どっちも飲みたいな。
でもいくらなんだろう。
〜 お財布は、しまっておいて。
窓の外の飛行機を眺めながら、何もしないで、ぼーっとする。それも、ここではぜいたくな時間だ。
〜 まだ大丈夫。呼ばれてから歩いても、先に乗れるから。
待ち時間が、そっくり「自分の時間」に変わっていた。
「グループ2のお客様、ご搭乗のご案内をいたします」
〜 ほら、呼ばれてるよ。
〜 一緒に行ってみよう。
リコリロの声に誘われて、ゲートへ。少し照れくさくて、周りの目が気になる。
搭乗券をかざすと、係の人がにこやかに声をかけてくれた。
「いつもご利用ありがとうございます」
ボーディングブリッジには、まだ人が少ない。機内に入ると、CAさんが笑顔で迎えてくれる。スマホとヘッドホンを取り出して、バッグは、まだたっぷり空きがある荷物棚へ。「すみません」と気遣う相手もいないまま窓側の席に着き、ゆっくりシートベルトを締める。
いつも搭乗ゲートで、大勢の列に並びながら見ていた、先に乗っていく人たち。
その「あの人たち」に、今日は自分がなっている。
あの人たちが先に乗る理由が、少しだけ分かった気がする。
〜 着いたね。最後に、もうひとつ。
飛行機を降りて、手荷物受取所へ。ベルトの周りには、もう人が集まっている。
ブザーが鳴って、ベルトが動き出す。みんなが一歩前に出て、流れてくる荷物をじっと見つめる。自分のはまだか。次か、その次か。似た色のスーツケースが来るたびに、少しだけ身を乗り出す。
〜 大丈夫。その荷物には「優先」のしるしが付いてるから。
いつ出てくるのか、考えなくていい。ベルトが回り始めて間もなく、見慣れたスーツケースが流れてくる。ひょいと持ち上げて、そのまま出口へ。
振り返ると、まだたくさんの人がベルトを見つめている。
〜 今日の魔法は、ここまで。
〜 でも、本当に上級会員になる方法があるんだ。知りたい?
風がふっと吹いて、もう声は聞こえなかった。
行列も、待ち時間も、短くなる。上級会員の良さは、こういう小さな「待たなくていい」の積み重ねです。
※受けられるサービスは、会員の段階や空港によって違います。専用の保安検査場やラウンジがない空港もあります。